​代表理事挨拶
清水 康之 Yasuyuki SHIMIZU
誰も自殺に追い込まれることのない「生き心地のよい社会」を創るために

 いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)の船出は、これまでの自殺対策の歩みを象徴するかのように波乱万丈なものになりました。というのは、当センターは本年4月1日に、「自殺対策の総合的かつ効果的な実施に資するための調査研究及びその成果の活用等の推進に関する法律(令和元年法律第三十二号)」に基づく厚生労働大臣指定法人として発足したのですが、発足したその日(入所式)から、新型コロナ感染症拡大の影響による自殺リスクの高まりを想定した緊急対応に最優先で取り組むことを決めて、何の準備もないままにいきなり大海原の荒波を突き進むことになったのです。

 4月2~3日の全体研修は、当初予定していた内容をすべて変更。職員26名を4つのグループに分けて、急きょ、各グループで「新型コロナ感染症の影響による自殺防止策」を検討してもらいました。「はじめまして」の挨拶を終えたと思ったら、早速自殺対策を具体的に立案することになり、職員の間に戸惑いもあったと思います。しかし、当センターの職員は、元自治体職員や民間団体職員、研究者や遺族、現職の医師等、生きることの包括的な支援(自殺対策)の最前線で活動してきた経験を持つ者ばかりです。すぐに、いくつもの具体策が打ち出されました。 

 そして、これまで(6月末まで)の3か月間で、具体策をいくつも実現させてきました。例えば、内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策推進室」と協定を結び、協働で社会実装を果たした支援情報ナビ」です。これは、制度等に関する情報が必要な人には「制度等の支援情報」を提供し、ストレスへの対処法を知る必要がある人には「ストレス対処法に関する情報」を伝え、ストレス度が極めて高い人(自殺リスクを抱えた人)は「直接支援につなげる」という、3段階の支援を途切れさせずに連動して行うことができるWebサイトです。

 

 また、新型コロナ感染症拡大の影響により、自殺防止や自死遺族支援等に取り組む全国の民間団体が活動の制限や休止を余儀なくされている実態を把握するため緊急調査」を4月下旬に実施。回答した55団体のうち46団体(83.6%)が活動を制限、休止せざるを得ない深刻な状況や活動再開に向けた課題等を明らかにしました。他にも、5月21日に、全国の自治体職員(自殺対策担当)向けに「オンライン緊急研修会を開催し(500超の自治体、600拠点超が参加)、新型コロナ感染症の影響による自殺リスクに備えるためにどういった対策を講ずべきかを伝えたり、これは新型コロナ感染症とは関係ありませんが、若者に人気の番組に出演していた女子プロレスラーが急逝したことによる報道に対して「自殺報道ガイドラインに即した報道」を行うように即座にメディア各社に申し入れを行ったりもしてきました。一方で、こうした緊急的な具体策と並行して、「革新的自殺研究推進プログラムの内容を検討したり、WHOの「国家自殺対策戦略」の翻訳を行ったりと、中長期的な視野に立った自殺対策にも取り組んできました。

 

 自殺対策基本法の策定時から常に、我が国の自殺対策が「現場本位」で行われてきたように、当センターもこれまでのそうした理念や基本的な方針を引き継いで、「目の前の危機」に即応しつつ、あわせて、「時代や社会の動き」をしっかりと捉えながら、厚生労働大臣指定法人としての責任を果たしていく所存です。一人ひとりが自分自身であることに意味を感じながら人生を全うできる、そんな、誰も自殺に追い込まれることのない「生き心地のよい社会」を創るため、ただひたすらに前進していく決意です。ぜひこのサイトを通じて、皆さまに少しでも当センターのそうした活動等について触れていただければ幸いです。

略歴
  • 1997年 NHKに入局

  • 2001年 『クローズアップ現代』で、自殺で親を亡くした子どもたちを一年がかりで取材。「お父さん、死なないで ~親が自殺 遺された子どもたち~」を放送。その後も、NHK報道ディレクターとして、自死遺児や自殺で亡くなった人の遺書、自殺対策等について取材を続けるが、「推進役」のいない日本の自殺対策に限界を感じて、2004年春にNHKを退局。

  • 2004年 NPO法人自殺対策支援センターライフリンクを設立。同代表に就任。

  • 2005年 国会議員会館で自殺対策をテーマにした初のシンポを企画・開催。

  • 2006年 「自殺対策の法制化を求める3万人署名(結果10万人分集まる)」を企画・展開して、「自殺対策基本法」の成立に貢献。

  • 2009年 内閣府特命担当大臣らで作る『自殺対策緊急戦略チーム』メンバーとして内閣府参与に就任(2011年8月まで)。『自殺対策100日プラン』の取りまとめ役を担う。

  • 2016年 自殺対策基本法施行から10年目の節目に、超党派「自殺対策を推進する議員の会」アドバイザーとして、基本法の大改正にも関わる。

  • 2019年 一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターを設立。同代表理事に就任。現在に至る。